A feeling of a partner
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「でさ、今度から子津の練習にも付き合うことにしたんだ。」
「…お前…体足りんのかよ?!」
屋上でいつもどおり昼食をとっている時に、何気なく言われた言葉に沢松は愕然とした。
普通の練習に加え、主将の牛尾宅でも守備の特訓をしている天国が。
更に野球部で一番の友人である子津のキャッチャーの練習をもすることになる。
前の二つは、野球の素人の天国にとっては必要なことだ。
だが、子津のキャッチャーになることは…。
けれど天国はこともなげに言う。
「何とかなんだろ?オレ、タフだしな。」
タフだとかそういう問題じゃないだろう、という言葉を飲み込む。
天国がこういう顔をした時は…もう決めた時だ。
それを沢松は厭という程知っている。
「ムチャクチャだろ…お前。」
「知ってるだろ?」
そう言って、天国は笑う。
この顔だ。
天国は自分が気遣われるとこの顔をする。
お前が気にすることじゃないから。
と。
悔しい、と思った。
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ドズッ
「さ、猿野くん、大丈夫っすか?!」
「へ…へーき、へーき…。」
グラウンド裏での特訓は、過酷を極めていた。
子津の変化の強い投球を受けるのには、天国の技術は到底追いつくものではない。
結果、天国は決して弱くない球に多数あざを拵えられていて。
その様子は、根から優しい子津にとっては見てもいられない様子だった。
それでなくても主将との特訓がこの後も残っていて、疲れ果てているだろうに…。
「今日はこの辺で終わりにしようっす!」
見かねた子津の言葉に、天国は答えた。
「何だよ、子津…もう終わりか?」
その答えに流石の子津も激昂した。
「こんな傷だらけなのに、ムチャクチャしないでくださいっす!
僕のためにそんな状態になってるのに!!」
すると天国の眼はす、と細められた。
「お前も、そんな顔すんだ…な。」
「え?」
ふらり、と天国の姿がゆれたかと思うと。
どさり。
「猿野くん?!」
天国は気を失っていた。
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「かんっぺきな過労だね。
体中痣だらけだし…無茶もいいとこよ?」
「はい…。」
結局倒れた天国を、子津は保健室までなんとか運んだ。
吸い込まれるように眠る天国の顔を見ると、思っていた以上に疲労していたのが分かる。
それなのに。
「…自分からは何も言ってくれないんすよね…。」
不真面目でふざけた性格を装う天国だが、そんなことは全くないのは知っていた。
誰よりも熱心に誰よりも貪欲に上手くなろうとして。
こうやって倒れこむほどに。
こんな彼を見たのは初めてではない。
合宿の時もそうだった。
無茶に無茶を重ね、そしてカーブ打ちを身につけた。
ふと、子津は思った。
あの時、伊豆にまで着いてきてくれた彼には、弱音をはいているんだろう…と。
そのとき。
「天国!」
派手な音を立てて、思考の主が現れた。
「こらうるさい!猿野くんが起きるでしょ?!」
「あ、すんません…。」
沢松は保健教師に謝罪すると天国の顔を見た。
疲労の濃い顔。
その顔を見て、沢松は辛そうな顔をした。
「沢松くん、早かったっすね。」
「…子津。悪いな、こいつが迷惑かけて。」
保護者のような言い方をごく自然にする沢松に苦笑する。
少しだけ…妬んでしまうような気がした。
その気持ちが、ぽつり、と思ったことを言わせた。
「やっぱり沢松君が一番の友だちなんすね…。」
「…!」
「沢松くん?」
子津の言葉に、沢松はみるみる表情を変えていく。
何かを嫌悪するようで、しかし悔しくて仕方ないような、そんな顔。
泣きそうにも、見えた。
「トモダチなんかじゃねーよ!こんな奴…!!」
「沢松くん?!」
(何を言って…。)
あまりにも意外な言葉で子津は驚愕した。
「いつだってそうなんだよ!
こいつはのうのうとオレの前を行くんだ…!
どんなに努力したってこいつにはかなわない…勉強も…スポーツだって…。
何もかもだ…!
アンタだってそうだろ?!」
「…!」
沢松は激しい言葉をぶつける。
子津にとっても、覚えのない感情すら思いださせた。
彼、猿野天国の力に対する妬み…。
でも自分は…。
「いつだって悔しくってこいつがムカついて仕方ねえよ!
…なのに…。
だけど…オレは…。」
「なら、もういいよ。沢松。」
「あまく…」
「猿野くん?!」
そこに眼を覚ました天国が二人を見ていた。
子津には初めて見る天国の表情。
何も見せない、そう決めた顔だった。
To be continued…
やっと動きました。
これであと2,3話で終わる予定です。
シンプルな話になってすみません。
けどこーいう沢松…自分でも新鮮で楽しんでますVV
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